【テストキッチン日記】「火」テストキッチンの紹介
朝は、扉や戸を開け放して、冷たい空気の入れ替えをしながら、おくどさんに火を入れる日はしゃがんだり立ったり、煙や煤と格闘したり、昔の人々の働きぶりに時々思いを馳せることがあります。ここに火があることで料理ができること、薪火の温かさや心強さも確かな魅力です。台所で研究や教育プログラムなどの仕込みをして暫くすると、台所の窓から朝の光がまっすぐ差し込んできます。ここでしか味わえない瞬間です。すぐ窓の外は山に続いているのもあるからか、しんと静かで、時折薪の割れる音や鳥の囀りが鮮やかに聞こえます。薪から上がる煙、羽釜から上がる湯気が朝日に照らされています。このテストキッチンの風景が好きです。
こんにちは。京都研究所のテストキッチン担当、羽田郁美と申します。「食」にまつわる伝統素材の歴史、地域性、生態系、そして今と今後の活用方法を研究しています。テストキッチン周辺をここでご紹介していきます。
弊社ラボは京都市内の北東、比叡山の麓にあります。江戸時代の終わる頃に建てられたことが記録に残っていて、農家の家として築200年以上経っているそうです。玄関の戸を引いて足を踏み入れると、右側が土間で左側が座敷で21畳の間になっています。土間の中央には五口の大きなおくどさんがあり、建物全体からバランスをみると、この家で料理をすることはとても重要だったようです。時折、親戚などが集まって100人分のご飯を煮炊きしていたらしく、立派な漆器類が本当に100個ほどと、大きなお櫃もそのまま置いてありました。ところで竈のことを、京都では「おくどさん」という愛称で呼んでいます。今回このおくどさんを修理してくださったのは、左官職人さんです。今、殆どのおくどさんは見物するだけになってしまっていますが、左官職人さん曰く、初めてこの使い続けてきたおくどさんを見たと言います。おくどさんを触ったことのある左官屋さんが今は殆どいないそうです。
縄文時代からアニミズム、自然崇拝的な思想があったといわれていたり、日本が群島という地形のため、人と人との関係性から偶発的に「いのち」を見つけ、「祈り」や「信仰」を見出してきたのかもしれません。それぞれの日本列島各地で食べるものを煮炊きする場所は神聖と考えられてきました。テストキッチンの五つのおくどさんのうち、真ん中一つは神様のためのもので、その特別に装飾された羽釜の下を見ると、火を焚く構造にはなっていません。
最も重要なのは良い焚き付けの材と薪の調達です。一番下に空気が入るように、小さな枝葉から少しずつ太さのある木を重ねて空気の層をつくり、扇いだり吹いたりと、一番太い薪に火が移っていくように、火が安定するまで見守ります。ここで焦って触ってしまうと、あっという間に火種が消えてしまいます。十分な材、それから「乾いたもの」であること。湿った端材で火をつけたときの煙のもくもくは避けたいので、雨が降る前には揃えておくこと。今、使っている薪は、滋賀の山の麓で薪暮らしをしている庭師さんが広葉樹を集めたものを運んできてくれました。「焚べた瞬間にとっても良い香り!」と思うことがあります。広葉樹は密度が高く、一旦火がつくと、長く燃えてくれるので、焚き火に適しています。
おくどさんは普段から餅をつくために餅米を蒸したりお芋や野菜を蒸したり、肉饅やお汁をこしらえたりして活用しています。これからは布を染めるために煮出したりの手しごとにも使われていく予定です。
つづく